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千葉地方裁判所 昭和37年(タ)25号 判決 1963年4月22日

原告 甲野太郎(仮名)

被告 禁治産者KS子後見監督人 乙野一郎(仮名)

主文

一、原告と禁治産者KS子とを離婚する。

二、原告と右S子間の長女H子(昭和二九年三月四日生)及び次女U子(昭和三二年七月三日生)の親権者を原告と定める。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、原告と訴外S子が、原告主張の日に婚姻の届出を了した夫婦で、その間に、長女H子(昭和二九年三月四日生)及び次女U子(昭和三二年七月三日生)があること、及び右S子が、原告主張の日に、禁治産の宣言を受け、原告がその後見人に、被告がその後見監督人に、夫々、就職したことは、公文書である甲第一号証(原告の戸籍謄本)、同第四号証(審判書)と原被告各本人の供述とによつて、之を肯認することが出来る。

二、而して、弁論の全趣旨によつて真正の成立を認め得る甲第三号証(右S子の精神鑑定書)と証人町山清、同町山さく、同根本むめの各証言並に原、被告本人の供述とを総合すると、右S子は、生来の精神病質者で、その知能は痴愚程度の精神薄弱者であるところ、昭和三五年頃から、精神分裂症状を発して、精神病者となり、昭和三六年一月中から、船橋市にある財団法人復光会の総武病院に入院、治療を受けて、現在に至つているのであるが、その病勢は衰退せずして、漸次、昂進して居ること、そしてその病状は、接技破爪病の著しい症状を示し、高等精神機能は、漸次、荒廃し、人格の中核は、既に、崩壊に帰して居て、現在に於ては、その病状の回復は到底、之を期待することの出来ないことが認められ、この認定を動かすに足りる証拠は全然ないのであるから、右S子は、強度の精神病に罹患していて、しかも、回復の見込が全くないものであるといわなければならないものである。

三、然る以上、原告は、民法第七七〇条第一項第四号の規定によつて、右S子との離婚を求め得ることになるものである。然るに拘らず、同条第二項所定の事由があるときは、裁判所は、離婚の請求を棄却し得るのであるから、右条項所定の事由があるかどうかについて按ずるに、原、被告各本人の供述を総合すると、原告は、離婚後の右S子の身の上の処置について、離婚後一〇年間は右S子の入院治療費を負担し、その他に金一〇〇、〇〇〇円を右S子分として被告に提供することを決意していること、そして、この旨を右S子の後見監督人である被告に申入れていること、尤も、被告は、この申入を承諾してはいないが、原告は、右決意の通り履行する意思であることが認められ、一方、証人町山さく、同町山清の各証言並に原告本人の供述を総合すると、原告は、幼い二児と年老いた両親とをかかえ、小規模な漁業を営み、その合間に自動車の臨時運転手に雇われて、一家の生計を維持しているものであつて、右二児の養育は目下のところ、原告の両親が之に当つているのであるが、その両親は既に八四歳と七〇歳の高齢であつて、今後、その養育を両親に委せることは出来ず、のみならず、今後は、両親の面倒をも見て行かなければならず、原告一人の手では、今後は、到底、生活を維持して行けず、従つて、健全な妻を得ることが当然に望まれる状況にあるのであるから、右S子と離婚することは全く止むを得ない事情にあると認められるのであつて、以上に認定の諸事情を綜合して考察すると、本件の場合においては、前記条項所定の事由は、存在しないものであると認定するのが相当であると認められる。

四、然る以上、裁判所は、原告の請求を棄却することが出来ないのであるから、前記法条第一項第四号の規定によつて、S子との離婚を求める、原告の本訴請求は、正当である。

五、尚、前記認定の諸事情を綜合すると、原告と右S子との離婚後における前記二児の親権者は、原告と定めるのが相当であると認められるので、この点に関する原告の申立も亦正当である。

六、仍て原告の請求を認容し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中正一)

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